第1展示室 ヨーゼフ・ボイス コレクションより
主な展示作品
「直観」1968年
「Ja Ja Ja Ja Ja, Nee Nee Nee Nee Nee」1969年「黒板消し(フェルト)」1971年
「Celtic + ~~~」1971年
「直接民主主義のためのバラ」1973年
「ferrum (鉄)」1975年
「汚染されたライン川の水」1981年
「エレメント(銅・鉄板)」1982年
「カプリバッテリー」1985年など。
その他版画作品等を常設展示。
展示作品の他にヨーゼフ・ボイスの作品やパフォーマンスを記録した写真資料を多数所蔵しております。
Noiseless Blackboard Eraser 1974年
難解と言われる作品を集めた美術館をどうして開館したのかというと、それは1975年にスイス・バーゼルのアートフェでドイツ人作家のヨーゼフ・ボイス(1921〜1986)の「黒板消し」という小さなフェルトで出来た作品をコレクションしたことから始まる。
ヨーゼフ・ボイスは現代美術を社会改革の手段と捉え、政治、経済、社会、環境に関わるような問題をテーマとした作品でよく知られる。彼の『芸術=資本』という金言は人間の持つ創造性こそが本来の資本であると訴え今なお多くの人に影響を与え続けている。
その有名なボイスの作品を当時わずか7000円程で購入し、何が私の心を捕えたのかを考えながら、その小さな「黒板消し」との終わりのない対話が今も続いている。美術作品はその表現する素材や形に込めた意味を知れば知るほど興味がわく、それは思考を促す智の泉とでもいうようなものだ。その後、機会がある毎にボイスの作品を収集し、今は当館の目玉コレクションとして常設展示されている。
館長 若江栄戽
Intuition 1968年
木箱の底板にはボイスの手で二本の平行線、その上に「intuition(直観)」と鉛筆で走り書きがされている。
70年代以前は野菜などの梱包材はどれも天然素材が多く使われ、ドイツの市場ではこの木箱に採れたての野菜を入れ並べ売られていた。そんな粗末な作りの木箱だが、ボイスが「直観」と書き込んだ空っぽの木箱を覗いていると、まさにそこに見る人の「直観」する力を呼び覚ますかのように問いかけてくるものがある。空箱であっても見る人が感覚を研ぎ澄まし何かを得ようとするなら、外見に見誤ることのなく即時的に感得できると言っている。
ボイスが住んでいたデュッセルドルフの旧市街の市場でこの木箱作品を山積みにして5~6マルク(千円程度)の値段でアカデミーの生徒と一緒に売っている写真を見たことがる。
直観に導かれ、思考を重ねることによって人は様々なものをこの世に生み出してきた。この小さな箱にはそんな可能性が秘められているのかも知れない。この作品は木箱の前に立つあなたの答えを待っているのです。
Topf 1984年
「Topf」(鍋)と題したシルクスクリーン版画がある。
ボイスがよく使う赤茶色で一筆描きされたような半円形で右上には塗り残しのような空白がある。「鍋」からすると把手とも見えなくはない。ボイスのすべての作品がそうであるようにこの作品も見る人の思考を誘発させるように意図されたボイスらしい作品の一つなのだ。
錬金術では鉛を金に変成する際に、頭蓋骨の上半分を鍋として利用するという。それゆえこの図形は「頭蓋骨=鍋」であると同時に血の色である赤茶色によって、人間の脳そのものをも表している。
ボイスの目指した芸術の役割の真髄がこの作品に込められている。それまでの常識的な固定観念が作品を見て考えることで脳が覚醒し、新たな価値観に変わり直観力に満ちた黄金の脳に一新される。それこそがまさに真の錬金術であると言っている。