湯川雅紀 展 Masaki Yukawa |
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2001年 10月5日(金)〜11月25日(日) 湯川雅紀 1966 和歌山県生まれ 1989 和歌山大学教育学部卒業 1991 大阪教育大学大学院美術教育研究科修了 1996 デュッセルドルフ芸術アカデミー修了 |
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1998年にVOCA賞を受賞した湯川雅紀。 彼の同賞受賞作品「無題」は、複雑に色が絡み合いグレーがかった背景にぼんやりとした楕円形が浮遊し、前景にはっきりとした色と輪郭の線と楕円の連鎖が横切る。図鑑で見たミミズの内蔵をモチーフにしたシリーズである。 「体内を仕切る隔壁とそれを貫く二本の管状の内蔵の単純な構造に興味を覚えて。ただモチーフはあくまでも制作の際の出発点として、個人的な動機付けとしてのみ重要であり、最終的にはその形態、色彩など知覚できない場合が殆どです。」 その画面は明確な意味や方向性を持たず、さりとて無視するには『何者か』の気配がそれを許さない。湯川の作品の魅力は、この曖昧で不安定な感触にある。その空間の心地よさは、視線を遊ばせる魅力に溢れているもののどこか覚めていて、画面の幻想風景に没入しきることを許さない。さまよう鑑賞者の意識はそのまま現実世界における諸々の関係の在り方にシンクロする。 1991年に大阪教育大学大学院美術教育研究科を修了後、デュッセルドルフ芸術アカデミーへ。修了後もドイツに滞在。そのような湯川自身は当初VOCA展の名前すら知らなかった。 湯川はこれまでにフランクフルトのギャラリーで個展を開くなど、ドイツとの関係は深まっているが、残念ながら日本での発表の機会にはあまり恵まれていない。しかし現在のドイツでの活躍や98年のVOCA賞受賞に見られるように、これからの展開が非常に楽しみな作家の一人であることは間違いないだろう。 そこでカスヤの森現代美術館ではこの企画展において、この平面に広がる若き才能の可能性を、より多くの人々に伝える絶好の機会にしたいと考えている。 カスヤの森現代美術館
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例えば自分で撮ったホームビデオ(我が子の運動会とか、そういうやつ)を再生して、そこに録音されている自分の声を聞いて愕然とし、こんな声で自分はいつもしゃべっているのかと、穴があったら入りたい気持ちになることがよくありますが(私だけかもしれませんが)、それと同じように絵を描くということは、その過程において、“普段自分では絶対認識できない自分自身”というものを、作品という形でもって当の本人が目の当たりにさせられる、ということでもあります。 これには二通りの感じ方があって、一つは、絵描きとして自分はこうありたい、こう描きたいという思いを、いとも簡単に作品は裏切ってくれる、というものです。出来上がってくる作品の中ではいつもへんてこな、“こんなもん作品になるかいな恥ずかしい”と最初考えていたものの方が、えてして自分の自然体だったりします。 もう一つ、展覧会などで自分の作品が飾られてあるのを見ると、自分はいつも自分の裸を見ている(見られている)ようで、やりきれない思いにとらわれますが、これはいくら場数を踏んでも変わりません。毎回死ぬ思いをして描いた作品たちが、結局ぶざまな自分自身に他ならないと思い知らされる瞬間。この気持ちは当の作家本人にしか分からない感情かもしれません。 そういう意味では、芸術の創意とは自己を限りなく相対化してゆく作業であって、それによって自分自身が癒されたり、救われたりするわけでは決してありません。 それでも絵を描いているのは、自分にとってこれが唯一の、他者とのコミュニケートする手段だからです。ぶざまな自分自身と、観客とともに向かい合うことで、作家は世界と繋がっているのでしょうか。 2001年9月 湯川雅紀
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