今回展示の中心となる版画集『聖シャンバラ』 は1974年に10点の図版と表紙、序文などがセットで収められ、南天子画廊より発行された(署名入り75部)横尾忠則の70年代を代表する作品のひとつで、発行の際、同画廊で開催された個展は大変な話題を集めた。 そして、この年開催 された第9回東京国際版画ビエンナーレでは版画集 のうちの《土其天》《土其人》《火其地》の3点 が出品され、兵庫県立近代美術館賞を受賞している。 また、6年前の同第6回展(1968年)開催時には横尾が展覧会ポスターの制作をデザイナーとして担当しているが、これは、横尾自身が既にあらゆる表現の領域に自在に入って行ける特別な存在であったことを物語ると同時に後の所謂「画家宣言」へと向かいクリエイターとしての立ち位置が60年代の終わりから少しずつ変化していた事を表しているようにも思える。
タイトルにある「シャンバラ」とは、地球内部の空洞に存在するとされる理想世界、アガルタ王国の首都の名称であり、そこには高度な科学文明と精神社会が存在するとされ、過去には東西の多くの科学者や権力者、探検家がアガルタを捜し求めた歴史もある。
横尾は当時「聖シャンバラ」の制作について「シャンバラの神意と一体化するための瞑想のようなもの」と述べているが、あるいはこの「聖シャンバラ」は横尾にとって未知のパラレルワールドとコンタクトするための装置のような役割を持っていたのかもしれない。 本展ではこの「聖シャンバラ」の図版10点の他に、今年制作された最新作の版画作品などを展示する。